
金原ひとみ著『ナチュラルボーンチキン』を読ませていただいた感想および読書記録です。
『ナチュラルボーンチキン』は、諦めた人ほど深く刺さる!すべてのチキンたちを救済する物語。ルーティン生活は心地よいけど、ゾンビになる前に一歩勇気を踏み出そう、と心から思える作品です。オーディブル聴き放題対象作品です。
現在 Audible は 3ヶ月99円キャンペーン+Kindle本300円クーポン付き を開催中です!(2025年12月1日まで) ※ 30日間の無料体験は こちら から。
登録は4ステップですが、失敗すると無料にならなかったり登録できません!失敗したくない方はこちら。
作品情報と読書記録
著者:金原ひとみさん
著者の金原ひとみさんは、1983年8月8日生まれ。2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞、翌2004年に20歳で第130回芥川賞を受賞し、時代の寵児として一躍脚光を浴びました。
私生活では、東日本大震災を機に、二人の娘を連れてフランスのパリへ移住し、子育てをしながら執筆活動を続けていました(2018年に帰国)。2024年には離婚を公表した。
デビュー以来愛と暴力、生と死、精神と肉体の乖離といった、人間が抱える根源的なテーマを描き、年齢を重ねるごとに深化する独特の魅力があります。
他の著書に『アッシュベイビー』『マリ・クレール』『マザーズ』『アタラクシア』『アンソーシャル ディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』など多数。
オーディブルでは、『ナチュラルボーンチキン』のほか『BOOM BOOM TAIPEI』『ミーツ・ザ・ワールド』『YABUNONAKAーヤブノナカー』『蛇にピアス』(2025/11/21配信)『マザーアウトロウ』(2025/12/19配信)などが聴き放題対象作品として配信中(または配信予定)です。
作品情報
オーディオブック
2024年5月17日からAudibleで配信開始。本作品は、他のメディアよりも先にAudibleで配信が開始されるオーディオファースト作品でした。累計で1,000件以上のレビュー、平均4.6以上(5点満点)の高評価がつき大反響があった作品です。オーディブル聴き放題対象作品です。また単品購入も可能です。
| 配信サイト | オーディブル |
| 著者 | 金原ひとみ |
| ナレーター | 日笠陽子 |
| 再生時間 | 6時間56分 |
| 配信日 | 2024/5/17 |
| 制作 | Audible Studios |
現在 Audible は 3ヶ月99円キャンペーン+Kindle本300円クーポン付き を開催中です!(2025年12月1日まで) ※ 30日間の無料体験は こちら から。
単行本、文庫本
Audible配信から約5ヶ月後、2024年10月3日に河出書房新社から単行本が刊行。
電子書籍
Audible配信から約5ヶ月後、単行本と同時に電子書籍発売。Kindleほか各種電子書籍配信サイトにて購入できます。
読書記録
わたしは2025年10月にオーディブルの聴き放題で初めて聴きました。その後電子書籍でも読みました。
『ナチュラルボーンチキン』のあらすじ
主人公・浜野文乃の「ルーティン」な日々
主人公は浜野文乃(はまのふみの)、45歳・独身・バツイチ、出版社の労務課に勤務。彼女の生活は極限までシンプルに、そして単調に保たれています。
- 毎日同じ時間に出勤・退勤。
- 食事はすべてメニューと時間が固定化。
- 着回す服も色違いの同じものばかり。
- 夜は動画を見て寝る。
文乃にとって、このルーティン生活こそが、過去の離婚と不妊治療で負った深い傷から身を守るための唯一の鎧でした。
20代パリピ編集者との出会いが転機に
そんな文乃の生活に、ある日、大きな転機が訪れます。
上司の命令で、スケボー通勤で捻挫をし、在宅勤務を続ける20代の編集者・平木直理(ひらきなおり)の様子を見に行くことになります。
平木は、ホストクラブ通いも公言し、自分の欲望に正直に生きる、ファッションも行動も文乃とは真逆、自由奔放系のいわゆるパリピ的な女子でした。文乃は最初、平木を苦手だと感じます。
しかしどこまでも自然体で飾らない彼女に次第に心を揺さぶられ、文乃の堅固なルーティンは少しずつ侵食されていきます。
平木の紹介で、文乃は売れないロックバンドの独身男性、かさましまさかさんと出会います。人生を「成り行き任せ」に生きる彼との出会いは、文乃に「新しい関係」をもたらします。
- 浜野文乃(はまの あやの):45歳、出版社労務課勤務の事務職。
- 平木直理(ひらき なおり):20代、文乃と同じ出版社編集部の社員。パリピ。
- かさましまさか:41歳、売れないロックバンド「チキンシンク」のボーカル。
- 光夫(みつお):文乃の元夫。
- 高畑翼(たかはた つばさ):元夫・光夫が担当していた作家。
- 金本(かなもと):かさましが所属するロックバンド「チキンシンク」のベーシスト。
- キャツ:平木直理が通うホストクラブのホスト。
『ナチュラルボーンチキン』の感想
金原ひとみさんの話題作『ナチュラルボーンチキン』。傷つくことを避け、「ルーティン」に全てを捧げて生きてきた45歳の主人公・浜野文乃(はまの・ふみの)が、対極の人間たちと出会い、閉ざした世界を少しずつ開いていく大人の青春物語です。
平木さんとの出会いはルーティン生活に対する斧
文乃にとってルーティン生活こそが、過去の離婚と不妊治療で負った深い傷から身を守るための最高にして唯一の鎧でした。この気持ち、とても良くわかります。
毎日同じ行動を繰り返すことで、予期せぬ失敗や裏切りのリスクをゼロにできます。人生を制御できているという感覚は、何にも代えがたい安心感を与えてくれます。
何かを決めたり、新しい選択をしたりする際に生じる精神的な消耗を回避できます。感情やエネルギーを使わないことで、傷つく機会そのものをシャットアウトできます。
この鎧は、特に過去に深く傷ついた経験がある人にとって、生きていく上で必須の防御システムになるのだと思います。
「それってなんか、ゾンビ的な、ってことですか?」
これは、ルーティン生活で「心が動かない平穏な状態」を求めていると力説する文乃に平木さんがぶっ放した言葉です。
平木さんがこの言葉を使ったとき、悪意はなかったかもしれません。しかし、文乃が「感情を排し、同じ行動を繰り返すことで静かに死を待つ」という生活を送っていたとき、平木さんが使った「ゾンビ」という言葉は、文乃にとって「生きた屍」という冷徹な評価として響きます。
平木さんは、文乃の完璧なルーティンを完全な死として言語化してしまったのです。
このシーンでわたしは、村上春樹が2006年にフランツ・カフカ国際文学賞を受賞した際に引用した言葉「本というものは、僕らの内なる凍った海に対する斧でなければならない」を思い出しました。この言葉は文乃の内なる凍った海に対する斧だったのではないでしょうか。
平木さんは文乃にとって、ルーティンというゾンビ的な生活を打ち破った斧になったのです。これは平木さんが文乃に与えた最大の贈り物であり、ここから文乃の新しい物語の再生がはじまっていたったのだと思います。
このときの平木の部屋を初めて訪れ、部屋を出ていった時の文乃の様子が象徴的でした。
「楽しい、とは違うけれど、足を踏み出すたび体にこびりついていた泥が乾いて動くたびにパラパラと落ちていくような、そんな爽快さがあった。」
お付き合いしていないという体のお付き合い
物語の中盤で、文乃とかさましまさかさんは「お付き合いしていないという体のお付き合い」を始めることになります。これは、「結婚」という固定化されたゴールでも、「熱烈な恋」という燃え上がる感情でもありません。
傷つくことを極度に恐れる文乃が、自分のペースとルールを守りながらも、他者と深く関わるという「新しい距離感」を試してみるという、極めて現実的で大人の選択をしています。
文乃が選んだのは、「奇跡のような大恋愛」ではなく、「傷つくかもしれないけれど、孤独を選ぶよりはマシ」という、地道で現実的な一歩なのです。二人は劇的な変化ではなく「新しい距離感」の選択していくことになります。
人生を変えるのは、特別な出来事ではなく、自分を変えたいと願うごく普通の人間が、ルーティンから一歩だけ踏み出した、その小さな勇気の積み重ねであると言えるのかもしれません。
「何も成し遂げなくていいんだって、ただ朽ち果てていくんだって思うと、樹みたいにで穏やかに生きていけそうです」
まさかさんのこの言葉にわたしは痺れました。
現代社会、特に40代という年齢は、キャリアや家庭で「結果」や「成功」を求められがちです。まさかさんは、その「成果主義」の重圧を完全に否定しています。彼が自らを「ナチュラルボーンシット」と呼ぶのも、この重圧に対する徹底した反抗の表明です。
文乃の元夫・光夫は、社会的規範や成功に囚われていた可能性があります。まさかさんのこの言葉は、文乃に「価値は成果ではなく、存在そのものにある」という新しい価値観を提示し、過去の呪縛から解き放つ力を持っています。
樹は何かを成し遂げようと努力するのではなく、ただそこに存在し、季節の移ろいを受け入れ、やがて静かに土に還ります。
文乃が「チキン」として人生から逃げたかったのに対し、まさかさんは「シット(クソ)」として人生の無価値さを自ら受け入れています。彼のこの穏やかな気持ちは、文乃にとって「これほど人生を諦めている人ですら、穏やかに存在できるのなら、私も大丈夫だ」という、究極の安心感と共鳴をもたらしているのだと思いました。
人生の重圧に疲れた現代人にとって、ある種の許しを与えてくれる深く痺れる言葉でした。
『コンビ人間』との共通性と違い
『ナチュラルボーンチキン』は、『コンビニ人間』(村田沙耶香著)との共通性を感じます。マニュアル通りに働き「普通の人間という架空の生き物」を演じる古橋恵子と、ルーティン生活で過去のトラウマからの逃避し傷つくことを避けきた浜野文乃。どちらも、生きていくために自分を守ろうとしている行為です。
ある種の共通性を感じますが、この二人の決定的に異なる点は、出会った男性でした。
古橋恵子が出会ったのは、すべてを世の中や他人のせいにするどうしようもないクズ男、恵子を道具として利用するだけの白羽でした。浜野文乃が出会ったのは、自分がクソだと自覚しつつ、文乃のすべてを受け入れる包容力を持つかさましまさかさんでした。
自分をそのまま受け入れてくれるような男性と出会うことがなかった古橋恵子は、自分の本質を貫き通し「コンビニ人間」へと昇華しました。それに対し、かさましまさかさんと出会えた浜野文乃は、あまりにも幸運すぎると思うかもしれません。しかしその幸運を引き寄せたのは文乃自身が小さな勇気を積み重ねた結果なのだと思いました。
すべてのチキンたちを救済する物語
文乃が特別なのではなく、「傷つきたくないからルーティンに逃げる」という行動は、社会生活を送る多くの大人が多かれ少なかれ抱える普遍的な心理です。
この小説は、「臆病であるあなたは間違っている」と言う代わりに、「臆病であることは自然なことだ(ナチュラル・ボーン)」「臆病でもいいから、一歩踏み出そう」といってくれます。
『ナチュラルボーンチキン』は「臆病なまま、欠点を持ったまま、それでも生きていい」という、現代の競争社会に疲れたすべてのチキンたちへ向けた、優しく力強い救いの物語でした。
まとめ
『ナチュラルボーンチキン』は、諦めた人ほど深く刺さる!すべてのチキンたちを救済する物語。ルーティン生活は心地よいけど、ゾンビになる前に一歩勇気を踏み出そう、と心から思える作品です。
に、心からおすすめします!ぜひ、あなた自身の耳で「ナチュラルボーンチキン」の物語を見届けてください。
『ナチュラルボーンチキン』はオーディブル聴き放題対象作品です。
現在 Audible は 3ヶ月99円キャンペーン+Kindle本300円クーポン付き を開催中です!(2025年12月1日まで) ※ 30日間の無料体験は こちら から。



コメント