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【読書記録】朝倉かすみ著『平場の月』感想「中年のリアルな恋愛に静かで透明な美しさを感じました。」

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朝倉かすみ著『平場の月』を読ませていただいた感想および読書記録です。

『平場の月』はこんな人におすすめ!
  • 50代前後の、人生の停滞感や孤独を感じている方
  • 心に深く響く大人の恋愛小説を求めている方
  • 静かで優しい視点で描いた作品を読みたい方
記事のポイント

『平場の月』は、病や孤独、老いや死といった避けられない現実に直面する50代にとってのリアルな恋愛、人生の後半戦を迎えた男女の心の機微を深く掘り下げた傑作です。audiobook.jpの聴き放題対象作品です。

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作品情報と読書記録

著者:朝倉かすみ

朝倉かすみさんは1960年生まれ、北海道小樽市出身。

2003年『コマドリさんのこと』で第37回北海道新聞文学賞受賞。2004年『肝、焼ける』で第72回小説現代新人賞受賞。2009年「田村はまだか」で第30回吉川英治文学新人賞受賞し作家デビュー。2019年『平場の月』で第32回山本周五郎賞受賞、第4回北海道ゆかりの本大賞受賞。

他の作品に、『田村はまだか』『にぎやかな落日』『よむよむかたる』など多数。

作品情報

著:朝倉 かすみ
¥748 (2025/12/11 10:49時点 | Amazon調べ)

単行本、文庫本

2018年12月13日に単行本(ハードカバー)が光文社から刊行、2021年11月16日に文庫版も発売されています。

電子書籍

2021年11月16日に電子書籍発売。Kindleほか各種電子書籍配信サイトにて購入できます。※2025年12月現在、Kindle Unlimitedの読み放題対象作品です。

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オーディオブック

オーディオブックは、audiobook.jpで2021年11月16日から配信されています。聴き放題対象作品です。

配信サイトaudiobook.jp
制作オトバンク
ナレーター佐東充
再生時間9時間38分30秒
配信日2021/11/16
聴き放題対象
単品価格1,650円

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映画

『平場の月』は、堺雅人、井川遥主演で土井裕泰脚本、監督により2025年11月14日より公開されています。

読書記録

わたしは2025年11月にaudiobook.jpの聴き放題で聴き、電子書籍でも読みました。

『平場の月』のあらすじ(ネタバレあり)

再会から始まる切ない物語

物語の主人公は、50歳の男性、青砥健将(あおと けんしょう)。離婚を経て老いた母の近くで暮らすため地元に戻り、印刷会社に再就職しています。

ある日、病院の売店で、中学時代の同級生である須藤葉子(すどう ようこ)に35年ぶりに再会します。須藤もまた夫と死別し、パートで慎ましく暮らしていました。

青砥は中学時代に須藤に告白してフラれた過去がありますが、再会後、二人は「互助会」と称して酒を飲むうちに、次第に心の距離を縮めていきます。しかし、須藤に大病が発覚したことで、彼らの関係は、単なる恋心を超えた生と死、そして人間の尊厳を巡る切実なものへと変化していくのです。

青砥と須藤が抱える過去と秘密

再会した青砥と須藤は、それぞれ50年分の人生の重みを背負っています。青砥には離婚や親の介護といった現実があり、須藤には波乱に富んだ人生と、誰にも頼らず自立していたいという強い信念があります。

特に、青砥の須藤に対する変わらない一途な想いと、須藤の持つ「太い」と評される芯の強さが、二人の関係を形作ります。彼らの間には、若さゆえの情熱ではなく、人生の苦楽を経験した大人同士の慈しみや信頼が静かに育まれていきます。

周囲を取り巻く人間関係と物語への影響

二人の関係は、彼らの家族や周囲の状況によって試されます。青砥は老いた母の世話や仕事があり、須藤は孤独と闘病、そして経済的な厳しさと向き合います。

特に、須藤が病を隠し通そうとし、青砥の優しさやサポートを頑なに拒絶する行動は、物語の核心的なテーマの一つです。これは、単なる意地ではなく、弱者になることを拒み、最後まで自分の尊厳を保ちたいという彼女の強い意志の表れであり、読者に深い考察を促します。

『平場の月』の主な登場人物
  • 青砥健勝(あおと けんしょう):物語の男性主人公。50歳、離婚歴あり。印刷会社勤務。
  • 須藤葉子(すどう ようこ):物語の女性主人公。50歳。夫と死別。
  • ウミちゃん:青砥と須藤葉子の中学時代の同級生。噂話好き。
  • みっちゃん:須藤葉子の妹。

『平場の月』の感想(ネタバレあり)

本作の「平場(ひらば)」とは、特別な出来事のない、つつましく簡素な日常を指します。青砥と須藤は、ふたりとも人生の「平場」を地道に生きる人々です。

なぜ須藤は「互助会」を持ちかけた?

偶然に再会した二人。須藤葉子は青砥健将に「互助会」を持ちかけました。

「互助会」とは、助け合いを前提とした対等な関係を意味します。須藤は、誰かに一方的に助けられたり、憐れまれたりする関係を最も嫌います。「互助会」という枠組みなら、青砥に助けられるだけでなく、自分も青砥に対して何らかのギブ(与えること)ができるという建前が成立します。

須藤は、青砥への愛を無意識に感じていながらも、それが発展して人生を共有するほどの親密な関係になることを恐れていました。しかし、夫を亡くし、病に直面する中で、完全に一人でいることの辛さも痛感しています。「互助会」は、恋愛感情の責任を負うことなく、お互いの「寂しさ」を限定的に埋め合わせるための、安全な距離を保った繋がりです。深い愛情を求めすぎず、しかし完全に孤立もしないという、彼女にとっての最適解だったのではないかと想像します。

総じて、「互助会」という呼びかけは、須藤葉子の「寂しさを埋めたいが、依存はしたくない」という、矛盾した願いが生み出した、彼女らしい不器用で、現実的な提案であったと推察されます。

「夢みたいなこと」とは?

須藤の表情は、その夜の月に似ていた。ぽっかりと浮かんでいるようだった。

この印象的なシーンで須藤葉子が考えていた「夢みたいなこと」とは、病を抱えた現実から解放され、青砥健将と共に送るであろう、あり得ないほど平凡で穏やかな未来であると考察されます。

彼女が考えていた「夢みたいなこと」とは、なんだったのでしょう。

須藤にとっての夢とは、自分の孤独や不安をすべて青砥に打ち明け、青砥に心から依存し、支えてもらうことではなかったと思います。それは「夢」のように甘く、現実離れしたものに感じられたのかもしれませんが、須藤が望んでいたことは違いました。

須藤にとって夢は、病のない体での「対等な愛」の実現であったと思います。

その夢への最大の壁は、彼女自身の病です。

もし自分が健康であったなら、対等な関係を継続できる。病という重荷を背負わせることなく、豪華な生活ではなく、青砥と二人で質素なアパートで暮らし、一緒に発泡酒を飲み、日常の小さな喜びを分かち合う、「平場」の範囲内でのささやかな幸せ。それが須藤にとっての「夢みたいなこと」だったのだと。

須藤の言葉「合わせる顔がないんだよ」が切ない

須藤葉子の「合わせる顔がないんだよ」という言葉は、青砥健将の献身的な愛と、彼女自身の抱える現実(病と経済状況)と倫理観との間に生じた、深い自己嫌悪と羞恥心を表していると思います。

「なんとかやってる」プライドの崩壊

須藤は、「なるべくずーっと、なんとかやってるって思わせたい」という強いプライドを持って生きてきました。しかし、病が発覚し、経済的にも厳しい状況に追い込まれたことで、その「なんとかやってる」という虚勢が崩れ去ったと感じています。

青砥は、彼女の病という最も隠したい弱み、そして孤独な生活の現実を知ってしまいました。須藤にとって、弱みを見せてしまった状態で彼と会うことは、自立した人間としてのプライドが傷つき、顔向けできないと感じたのではないでしょうか。

青砥の「純粋な愛」に対する罪悪感

青砥の愛は、須藤の病や経済状況を含めたすべてを受け入れ、支えようとする、極めて打算のない、純粋な献身です。この純粋さが、かえって須藤を苦しめています。

須藤は、青砥の愛を「夢みたいなこと」だと認識しており、自分にはそれを受け取る資格がない、受け取れば彼に重荷を押しつけることになると強く感じています。

プロポーズを受けた時点で、二人の関係は「互助会」という対等な関係から、「看病する側とされる側」という対等でない関係に変わってしまいます。対等な関係を維持できない状態で青砥と会うことは、彼の愛に報いることができないという罪悪感を伴います。

「合わせる顔がない」という言葉は、「あなたの愛の前に、今の私はあまりにもみすぼらしく、罪深い存在であり、対等な人間として接することができない」という、須藤葉子の極限の自己嫌悪と、それゆえに愛する人を遠ざける切実な理由を示しています。

「平場の月」とは?

人生の「平凡で、波風のない、停滞した日常」の中に、夜の暗闇にそっと浮かぶ「静かで、満たされることのない愛や希望」が差し込んでいる状態を表しているのではないでしょうか。

彼女にとって、「平場でのささやかな愛」の実現は「病のない体」があってこそ初めて成立する「夢」であり、プロポーズの拒否と距離を置く選択は、一方的な依存関係を青砥の人生に押しつけないための、彼女なりの愛の表現だったと言えるのでしょうか。

須藤の草の真んなかの太い根は地中に真っすぐ伸びていた。…根は、案外、深かった。深かったのだと、青砥は思った。

青砥が思い至った「根」の深さとは、単に須藤の生命力が強いということではなく、彼女の生き方、倫理観、そして愛の選択のすべてを指しています。

須藤が最後まで、病という最大の危機に際しても青砥の愛や助けを頑なに拒否し、一人で運命を引き受けたのは、自分の人生の責任を他者に委ねないという、彼女の哲学が想像以上に深く、揺るぎないものでした。

青砥は、須藤を救済したい、支えたいという願望を、この瞬間に完全に断念します。彼は、須藤が選んだ「孤独な自立」という生き方を、外部から介入できない、神聖で侵しがたいものとして認めざるを得ませんでした。

須藤の拒否は、青砥を病と死の重荷から守り、彼の未来を「平場」に留めるための究極の自己犠牲でした。青砥は、その行動が自分に向けられた最後の、最も高潔で厳しい愛の表現であったことを悟ります。須藤の生き方は、世間的な「幸せ」の形ではありませんが、青砥はそこに「月」のような、静かで透明な美しさを見出したのだと思います。

まとめ

『平場の月』は、病や孤独、老いや死といった避けられない現実に直面する50代にとってのリアルな恋愛、人生の後半戦を迎えた男女の心の機微を深く掘り下げた傑作です。

『『平場の月』はこんな人におすすめ!
  • 50代前後の、人生の停滞感や孤独を感じている方
  • 心に深く響く大人の恋愛小説を求めている方
  • 静かで優しい視点で描いた作品を読みたい方

audiobook.jpの聴き放題対象作品です。

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