
市川沙央著『ハンチバック』を読ませていただいた感想および読書記録です。
『ハンチバック』は文学界の破壊王です。純度の高い怒りと、死に物狂いの欲望が、あなたの常識を破壊します。オーディブル聴き放題対象作品です。
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作品情報と読書記録
著者:市川沙央
市川沙央(いちかわ さおう)さんは、1979年(昭和54年)生まれ。2023年にデビューし、同年に芥川賞を受賞した日本の小説家。神奈川県大和市に在住。先天性ミオパチーによる症候性側弯症のため、人工呼吸器を使用し電動車椅子で生活をされている。
2023年、デビュー作『ハンチバック』で第128回文學界新人賞、第169回芥川龍之介賞を受賞している。
その他作品して『女の子の背骨』などがある。
作品情報
単行本、文庫本
2023年6月22日に文藝春秋社より刊行。2025年10月7日に文庫版が刊行されている。
電子書籍
単行本と同時に電子書籍発売。Kindleほか各種電子書籍配信サイトにて購入できます。
オーディオブック
| 配信サイト | オーディブル | audiobook.jp |
|---|---|---|
| 制作 | Audible Studios | オトバンク |
| ナレーター | くわばらあきら | 笠原あきら |
| 再生時間 | 1 時間50分 | 2時間14分35秒 |
| 配信日 | 2023/7/19 | 2025/9/27 |
| 聴き放題 | 対象 | 対象 |
| 単品価格 | 1,400円 | 1,430円 |
※ オーディオブック版では登場人物の名前が一部変更されています。
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読書記録
わたしは2025年11月にオーディブルの聴き放題で聴きました。
『ハンチバック』のあらすじ
物語の主人公は、先天性ミオパチーによる症候性側彎症という重度障害を持つ40代の女性、井沢釈華(いざわしゃか)です。人工呼吸器を使用し、寝たきり同然の生活を送りながら、裕福な遺産とWEBライターの仕事でグループホームにて暮らしています。
彼女は、自らを「ハンチバック」(せむし、身体の歪んだ者)と呼び、その存在を社会が軽んじていると感じています。彼女は、自身の置かれた境遇、そして「読書」や「文学」の世界でさえも健常者優位の構造になっていることに、静かに、しかし激しく怒りを抱いています。
そんな釈華が、ある日、人間としての根源的な欲求を満たすための衝撃的な計画を実行に移そうとします。
- 井沢釈華(いざわしゃか):物語の主人公。40代の女性。先天性ミオパチーによる症候性側彎症という重度障害を持ち、人工呼吸器を使用している。
- 田中(たなか):34歳の男性。釈華が暮らすグループホームの介護士。
『ハンチバック』の感想
『ハンチバック』はあなたの「常識」を破壊します。
市川沙央さんの芥川賞受賞作『ハンチバック』。タイトルだけ聞くと難しそうですが、実はこれ「社会に対する主人公のヤバすぎる逆ギレ」を描いた、超刺激的な小説だと思いました。
「障害者の話なんて、自分には関係ないし…」と思っている人にこそ、ぜひ知ってほしい!
あなたは本当に自由ですか?
主人公の釈華(しゃか)は、先天性ミオパチーによる症候性側彎症で、人工呼吸器に繋がれ、身体の自由をほとんど奪われた重度障害者です。
彼女が私たちに突きつけるのは、「お前たちは身体は自由かもしれないが、心まで自由なのか?」という強烈な問い。
なぜなら、私たちが「当たり前」だと思っている「呼吸」「歩く」「本を持つ」という動作すら、彼女にとっては「羨望の特権」なのです。しかし、その身体の制約があるからこそ、彼女の頭脳と欲望は、私たちの道徳や社会の建前を破壊するほどのエネルギーを溜め込みました。
わたしたちは身体が動くからといって、誰かの評価や社会のルールに縛られて、本当にしたいことを諦めていませんか?この小説は、あなたの「心の不自由さ」を、彼女の「身体の不自由さ」と対比させながら、容赦なく暴き出してくれます。
純度の高い怒り
釈華は、自分の身体が自由に動かないこと自体よりも、その不自由さを基盤として成立している「健常者の無自覚な特権」に対して、最も強い怒りを抱いています。
紙の本を「傲慢なオブジェ」と呼び、ページをめくるという行為すら「特権」であることを指摘します。彼女の怒りは、単に読書ができないことではなく、その「当たり前」の行為が彼女を拒絶するバリアとなっている構造に向けられています。
介護士や周囲の人々から向けられる「可哀そう」「頑張って」といった言葉を、心からの共感ではなく、「あなたとは違う」と線引きし、安心するための偽善と見抜いています。この上から目線の善意が、彼女の尊厳を侵す暴力であるとして、純粋な怒りとして跳ね返しています。
死に物狂いの欲望
この小説がただの社会派小説で終わらないのは、釈華が望む究極の欲望があまりにも過激だからです。
彼女が命がけで望むのは、愛やロマンスではなく、「妊娠し、中絶する」ことでした。
「死にかけてまでやることかよ」
そこまでして?なぜ?と思う人が多いでしょう。
彼女は、難病という不条理な運命によって「生」を決められました。だからこそ、自分の意思で「命を創り出し、終わらせる」という、究極の選択権を、何が何でも手に入れたかったのかもしれません。 私は、彼女の身体的な状況は正確には理解できません。でも、「自分の人生は自分で決めたい」「誰にも指図されたくない」という、この死に物狂いの欲望は、私たち誰もが持っている、人間としての最も純粋で、最も切実な叫びなのではないでしょうか?
ハンチバックは破壊王
安易な同情や「頑張って」という無責任な励ましを、「お前とは違う世界の人間だ」と線引きする暴力だと見なします。彼女の存在は、「弱者=善良」という、健常者側の都合の良い道徳観を木っ端微塵に打ち砕きます。
障害者にはないものとされがちな、ドロドロとした性的な欲望や、金と知性による支配欲を剥き出しにすることで、社会が障害者に押し付ける「清く、慎ましくあれ」という道徳観を粉砕します。
自分の身体を自由にできない運命に対し、「生命を創造し、それを終わらせる」という行為を通して、自分の人生のオーナーシップを誰にも譲らないという強い意志を示しました。これは、生命の神聖性や、安易な「命は大切」という論理が立ち行かなくなる極限の問いであり、わたしたちの倫理観を破壊します。
「純文学は、紙の質感や装丁、ページをめくる行為を含めて完成する芸術である」という、長らく出版界に根付いていた紙偏重主義。「紙の本は、重くて、硬くて、読者を拒絶する」と紙の本を憎んでいる釈華は、音声や点字、拡大文字といったアクセシブルなフォーマットへの対応を後回しにしてきた出版界の慣習を強烈にぶっ壊しました。
まとめ
『ハンチバック』は文学界の破壊王です。純度の高い怒りと、死に物狂いの欲望が、あなたの常識を破壊します。
今の世の中になんかモヤモヤしてる人。主人公・釈華の純度の高い「怒り」は、あなたの日常の不満や理不尽への怒りを代弁し、溜め込んだエネルギーを一気に解放してくれます。
ちょっとブラックなユーモアや皮肉が好きな人。重度障害という究極の状況から放たれる、社会の偽善や建前をぶった切る毒舌は、痛快でスリリングな読書体験を約束します。
「障害者って、正直よくわからない」と思っている人。この小説は、同情や感動を強要しません。剥き出しの「欲望」と「エゴ」を通して、障害のある人も、あなたと同じ、醜くも切実な願いを持つ一人の人間であることを突きつけられます。
「自分の人生は自分で決めたい」と強く願っている人。身体の自由を奪われた主人公が、それでも「命の生殺与奪」を自ら握ろうとする姿は、あなたの「自己決定権」とは何か、その価値と重さを問い直す、最も強力なメッセージとなります。
ぜひ、この特別な物語をぜひ聴いてみてください(または手に取ってみてください)。オーディブル聴き放題対象作品です。



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